足場の必要性とシートの必要性

現在の建築現場では、一般的な戸建住宅の新築や改装や塗装塗り替えなどの場合でも、金属製の工具を用いた、手すりや階段のついている足場が組まれることがほとんどです。さらにそれにメッシュシートや防音シートが被されているため、建物の周りを別の建物で取り囲んだような、かなり大規模な工事をしているという印象を受けます。建築工事の品質や安全性に考慮し、しっかりとした仕事をするようになってきたということなのですが、かつて足場は丸太を組んで作られていて、かなり最近まで丸太足場が残っていたということもあり、 またその丸太足場の発展形としてパイプを組み合わせただけの単管足場がつい最近まで使われていたことがあり、 このような足場の形状を大げさだというように考える人もいるかも知れません。
この記事ではなぜ足場が必要なのか、なぜシートが必要なのかということについて、改めて振り返ってみたいと思います。

建築工事における足場の必要性

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塗装工事などで見積もりを取った時に、見積もりの内訳に、足場の設置費用の項目を見かけたことのある人も多いと思います。一戸建てのリフォームの現場などで金属の工具で作られた足場がメッシュ状のシートで覆われている姿を見たことのある人も多いと思います。
しっかりとした仕事をしていると言えばそうなのですが、足場設置費用の金額も安くはないことからすると、なぜこれが必要なのか、ちょっと大げさではないのか、一般家屋の壁の塗装ぐらいは屋根に乗ったり梯子をかけたりしてすることはできないのか、もしかして不必要な費用をねじ込まれているのではないか、というように思った人も多いかもしれません。
そこで、この記事では足場の必要性について説明をしようと思います。

足場工事が必要な理由は二つあります。

1. 労働安全衛生法での決まり
労働安全衛生法は、昭和47年に労働基準法第5章から分離・独立して作られた、労働者の「安全と健康の確保」と「職場環境の形成・促進」を目的とした法律です。建築工事における重要な法律の一つです。

(作業床の設置について)
高さが2メートル以上の箇所で作業を行わせる場合には、墜落災害を防止するために足場を組み立てる等の方法により、作業床を設けなければなりません。足場の設置により作業床を設けることが困難な場合には、防網を張り、安全帯を使用させる等墜落を防止するための 措置を講じなければなりません。(労働安全衛生規則第518条)

労働安全衛生規則ではこのように明確に定められており、一般的な戸建住宅の塗装工事では平屋でも2メートル以上の高所作業になりますので足場を設置して作業することが必要になります。
2. 作業の安全性と作業性の違い
例えば塗装工事を例にとると、塗装の品質を決めるのは、塗装前の汚れなどを取り除く下準備であり、また下塗り・中塗り・上塗りという3回の塗装をていねいに行うことです。はしごや脚立で2メートル以上の高所作業を行ったり、 屋根によじ登るなどの無理な体勢で作業を行った場合、どうしても作業の丁寧さがなくなってしまいます。
塗り残しのような素人でもわかるような部分はちゃんと作業をするかもしれませんが、素人が見てもわからないような部分を丁寧に作業するかどうかは、職人の誠実さとこだわりによる部分が大きく、その職人の安全性を犠牲にしてコストダウンを要求しておいて、その職人に誠実さとこだわりを求めることは無理な相談というものでしょう。
すなわち、足場を設置せずに工事を行うことは、その目的がコストダウンならば、まさに安物買いの銭失いと言えるでしょう。

足場におけるメッシュシートの必要性

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足場には足場を覆うような形でシートが設置されていることがあります。このシートはメッシュシートのことが多いですが、防音に配慮した防音シートが設置されていることもあります。このシートはなぜ必要なのでしょうか。

① 物体の落下防止
塗装にせよ建築や解体にせよ、建築工事には様々な工具や備品を用います。それらが足場から落下し近隣の家屋などに被害を与えるということがあります。もちろん最悪のケースは下に人がおり人身事故を起こしてしまうことです。 これを防ぐためにシートを用います。
② 近隣家屋への被害の防止
特に塗装工事の場合は塗装面の下準備のために高圧洗浄で水洗いをしますのでその飛沫が庭や敷地内の植木さらには近隣の建物などに飛ぶ場合があります。また塗料も同じように飛沫が飛ぶ場合があります。これ等を防止するために飛散防止シートを設置します。
③ 騒音の防止
これはメッシュシートではなく防音シートの場合ですが、工事現場では各種の騒音が出ることは防げませんので、その防音効果のために防音シートをはることがあります。 ただし防音シートはこの形状上強風に弱いという特徴を持っているため、必ずしもメッシュシートよりも防音シートの方が優れているというわけではありません。これは TPO によります。

労働安全衛生規則上では、平成21年までは防網の設置や立ち入り区域を設定するなどの一般的な措置を義務付けていただけで、具体的な法令上の規定がありませんでした。平成21年の足場関係の改正で作業床からの落下防止措置として、高さ10センチメートル以上の幅木、メッシュシート、防網などの設置を義務付けました。

しかしこの労働安全衛生規則をよく見てみると、メッシュシートの設置は高さ10センチメートル以上の幅木などと同じような選択肢の一つとも考えられます。つまり、 高さ10センチメートル以上の幅木が設置されていればメッシュシートはいらないというようにも解釈できます。
このようにメッシュシートの設置は法令上絶対に設定が必要なものというわけではありませんが、 建築物や足場からの飛来落下を防止するためには望ましいというように位置づけられており、隣家や道路に隣接した場合は当然にその設置が必要と考えられます。

そのため工事見積もりにシートの設置が含まれていた場合は、当然の費用というように考えるのが妥当です。

足場と悪天候

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しかしシートに関して言うと、丈夫なシートを常に設置しておくのが正しいというわけでもありません。法律上はメッシュシートの設置などの措置が著しく困難な場合や作業の性質上に取り外す場合で立ち入り区域を設定した場合は措置そのものが免除されます。
具体的には悪天候による風荷重です。枠組み足場の作業中に台風や前線通過による報復はもちろん天気予報とは関係がなくゲリラ豪雨や突風が起きることがあります。強風が発生した場合にシートが風を含んでしまって最悪の場合は足場倒壊の可能性があります。

そのためまずは補強が不十分な状況である建方作業前の先行足場では、原則としてシートを設置してはならないというように足場先行工法のガイドラインで定められています。

また悪天候時には枠組み足場を固定するかシートをたたむということが大切になります。
足場作業中に台風による強風、大雨、大雪の悪天候が続く場合でも足場を建物の外壁に固定するなどしておくと足場の倒壊にはつながりにくくなります。

労働安全衛生規則 第522条
「事業者は、高さ2m以上の箇所での作業を行う場合においては、強風、大雨、大雪等の悪天候のため、当該作業の実施について危険が予想されるときは、当該作業に労働者を従事させてはならない」

足場だけに限らず、労働安全衛生規則では強風大雨大雪等の悪天候での高所作業を禁止しています。しかし危険が生じる可能性があるのであれば基準に満たない場合でも状況に合わせて作業中断の判断が必要となります。